忍者ブログ
なんくるないさぁ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「――ちゃん、……のどかちゃん」

昔から変わらない、いつもの声が
のんびりと私を呼んでいる。

 

「……ん…」
「のどかちゃ……あ、起きた?」

 

机に突っ伏す形で寝てたらしい。

まず一番に視界に入ったのは、
手前で組んでいる紺色の袖……つまり制服で…

次に視界に入ったのは、
馴染みのシャーペンと汚い字が走るノート……つまり勉強中で…


更に教室特有の喧騒。

 

 

 


「……えっ、私授業中に寝ちゃってた!?」

勢いよく顔をあげると、
前の子の席を借りて 椅子の背もたれに上体を預ける唯と目が合った。

「ううん、すっごく眠そうだったけど…最後まで起きてたと思うよ~」

 

…そう、言われてみれば… そうだった…  ような。

あと5分というところで急に睡魔に襲われて、
シャーペンの先端を手の甲に刺してみたり
頬をつねってみたりして、その5分だけは何とかしのいだ。

終業の号令をかける頃には もう目の焦点も合ってなくて…


[これが6時間目でよかったわ…]
とか思いながら座った瞬間に意識が飛んだ。

…そう、確かこんな感じ。

 


ということは今は放課後で…

「私…何分ぐらい寝てたのかしら…」
「んー?」


更に顔をあげて時計を見ようとした。
おそらく時計も何も気にせず幼馴染を観察していたであろう彼女も
今の今まで時計は気にしてなかったのかもしれない。
一緒になって黒板側に体をねじっていた
……が

 

「……10分ぐらいだねぇ」

時計が掛かってるのは色で分かるのに
長針と短針の位置も見えず、文字盤までぼやけてる。

…視力が落ちたかもしれない。
またレンズを換えにいかないと……めんどくさい。
 


「――っじゃなくて、レンズそのものがない…!」

自分で思っておきながら思わず自分でツッコんでしまった。


「ほぇ? ……あ!ホントだ!メガネがない!!」

思えばこの距離で唯の顔とも焦点が合わないんだから
おかしいに決まってた。
……今まで気付かなかった唯も唯だけど、
私も私…  不覚すぎる。

 

念のため 制服のポケットや机上、鞄や机の中…と
有り得る限りに一通りは探したものの、

「………ない」


「ど どどどうしよう!?のどかちゃん!」
「…唯が慌ててどうするのよ」

スペアをつくろうか考えてた最中なだけに、
貯金をおろしてでも作っておくべきだった…と少し悔しくなってきた。

 

「しょうがないわね……適当に探してみるわ」
「え、でもでも メガネないと全然見えないんじゃない?」
「…………」

今の私の席は一番窓側の後ろから2番目。
教室真ん中の、私よりも少し前の席で
風子が静かに本を読んでる……くらいなら分かる。

もちろん何を読んでいるかまでは見えない。
小さな白いモノを両手で持って下を向いてる輪郭から
そう判断しただけで、実際本当に本を読んでるかどうかすらも
分からない。

席の位置が風子なだけで、もしかしたらあそこにいるのは澪かもしれないし…

 


「私も探すの手伝うよ!」
黙ってた私を前に、目を輝かせながら唯が言った。

「ぇえ!? …でも…部活はどうするのよ」
「だーいじょーぶ![のどかちゃんが起きたら行くね]って言ってあるから!」
「もう起きたわよ」

「うん! じゃあまず! 教室から探してみよう!」
と言いながら唯は張り切って椅子から立ち上がった。
「……そう、ね。でも本当に付き合わせちゃって いいの?」
「いいっていいって。困ったときはお互い様だよ!」

「ええ、まぁ……じゃあ お言葉に甘えるわ」


オーバーリアクションで教室全体を見渡す唯。
その後ろで座ったまま例の赤いフレームを探す私。

「ちょっ、唯何してんの~?」
フンス!といつものドヤ顔をしている様子が
みんなの目に映ったらしい。
「えへへ~、のどかちゃんのメガネ探し!」

「え? …あ!ホントだ!メガネしてない!!」
「ちょっ、これはレアだよ委員長!」


「…ぇえ!?」

どうしてこうなるの…


「はいはーい!今度こっちね~」
「あっ、ずるい!あたしも委員長と撮るんだから!」

…卒業式じゃないんだから…
とツッコみたくなる勢いで
クラスメイトたちと撮影会がしばらく続いた。

 

 

「メガネなら」

撮影会が落ち着いたとき、スッと私たちの前現れたのは、
私以上にポーカーフェイスな若王子さん。

「さっき、軽音部が」
そこで言葉を切って廊下の方を向いた。

「もういないみたいだけど」

 

「そうなんだ、ありがとう」
彼女に笑顔でお礼を言いながら、私の思考はすでに別の方へ行っていた。

「……唯?」
若王子さんに向けた笑顔のまま、
きょとんとしている唯と目を合わせる。

「なーに、のどかちゃん?」
「あんた…実は何か知ってんじゃない?」


「え?」
全く何も知らない風に首をかしげる唯を
黙って私は見ていた。

「どうせ唯のことだから…
 誰かに[メガネ貸して!]って言われて、私の代わりに答えて
 [和ちゃんに言っとくね]とでも言ったんじゃないの?」

 

 

 

 

 

 


「っは!!! そうだった忘れてた!!!」

私の口からは、言葉の代わりに 大げさなため息だけがこぼれた。


「――すんませんっしたぁ!!」
自席に戻ってしっかり座りなおした唯は
私からの[事情聴取]を受けてすっかり縮こまっていた。


想像で言ってみたことがまさか本当になってたとは思わず
聞きながら私も驚いてた。

 


*****

ちょうど和が意識を手放して深い眠りについた頃……
「唯~…部活い「しーっ」
軽音部の律・澪・ムギの3人が唯と和の席付近に来た。
いつも通り元気に部活に誘う律を、唯が制して…
「今のどかちゃん、寝てるんだ…」

「和が? …珍しいな…」
「でも、教室の方に顔を向けちゃってる」
「はい!ではこっそり和の寝顔を拝k…ぁいたっ」
「自重しなさい」

「あれだけ眠そうにしてたのに、ちゃんとメガネは外したんだよ~」
「……よく、見てたなぁ唯」
「うん!だって後ろの席だもん」
「いや見えないだろそこまで」
「しっかし和のメガネって不思議だよなぁ」
そう言いながら律が 机の隅に置かれたメガネを持ち上げた。

3年2組はメガネ率が高いわりに
色付きの太いフレームを使ってる人は誰もいなくて…
更にフレームの上半分がない[アンダーリム]タイプを使う人も
学校単位で見てもほとんどいない。

「和イコールこのメガネ、って感じだよな」
閉じていた つる を広げ、律が装着。
「っわ…結構キツいの使ってんのな」
「どれどれ~」
「ちょっ…おい」
澪が制しても当然律とムギは聞かない。
しまいには メガネのかけ比べが始まってしまった。

「梓にもかけさせてみようぜ!」
「そうだね~」
「っおい! …ああもう」
走って教室を出ていった2人を追いかけるように
澪も教室を出て行こうとした。

「唯!すぐ取り返してくるから和に説明だけしといて!」
「あいあいさ~」
顔だけ教室の方に向けてそう言い残すと、
すぐに走り去ってしまった。

*****

 


「と、いうことは…まだメガネは音楽準備室に?」
「うーん、そう なのかも…りっちゃんたち戻ってこないし」

全く悪びれる様子もなく一緒に真剣に考える唯。
元はといえばわざわざ寝る前にメガネを外してしまった自分が悪いから
これ以上唯を責める必要はない。

レンズを拭くことはほとんどないし、
体育でもメガネのままだから……
今更になって違和感がしてきた。

「とりあえず、音楽準備室に行きましょう」
「そだね~」

そう言いながら私たちは荷物を鞄に詰め始めた。

「唯、そっちの人は…?」
「ほぇ?のどかちゃんだよ~」

廊下を歩き始めて数回目となるこのやり取り。

「……そんなに顔違う?」
話しかけてきた子に聴こえないよう、唯に耳打ちした。
「そーかなぁ?私は昔っからのどかちゃんの顔見てきたから…」
これまた小声で答える唯。
私がメガネをかけ始めたのが中学の頃だったから、
その前を知ってる平沢姉妹ぐらいしか、
この顔を見慣れてないということになる……


「っ会長!まだ生徒会室に行ってなかったんだ!?」
「あ、よーこちゃんだ」
緑がかった黒髪をセンターで分けてるこの子は
うちのクラスメイト(で生徒会役員でもあり秋山澪FC会員)でもある佐々木さん。
「さっき、りっちゃんからメガネを預かったんだけど、
 もう生徒会室行ってると思って、そのまま後輩に渡しちゃった…」

「き、気にしなくていいのよ」
あまりに申し訳なさそうに頭を下げてるものだから
慌てて言葉をかけた。
「じゃあじゃあ、メガネは生徒会室にあるんだ~」
「うん、ホンっトごめん!!」
「いいってことよ~」
「…それ私が言うとこなんじゃ…」


くるりと向きを変えて、私たちは生徒会室へと向かった。
まだ階段を上がる前だったから 佐々木さんのタイミングはよかったと思う…

 

 

 

 

 

「「ぇえ!?」」
生徒会室にいた赤いタイの後輩の言葉に、
私たちの驚きの声がキレイにハモった。

佐々木さんからメガネを預かって
生徒会室に戻ったこの子は、私がいないことを確認すると
今度は緑のタイの後輩に 音楽準備室に持っていくように
メガネを託したらしい。


「だって会長、…軽音部のマネージャーも兼部してるんじゃ」
「し・て・ま・せ・ん!」
「え、違ったの?」
「違うから。唯まで乗らないの」
「……そうじゃなきゃ、[じゃあ私 音楽準備室行くね]なんて毎日出ないですよ」

後輩からの指摘に、顔が赤くなってきた。

確かにここ最近、ほぼ毎日のように音楽準備室もとい軽音部に顔を出してる。
書類関係で律に用事があるときもあれば…
唯に忘れ物を渡したり、
澪を助けに行ったり、
…なんだかんだで、ムギのお茶菓子までごちそうになってる。


「あの子、すごくうれしそうに行っちゃいましたよ」
「ああ…澪ファンクラブ会員だったわね…」
「今から走れば、行き違いにはならないと思いますが」

「そうね、ありがとう。 ……行くわよ、唯」
「りょーかいっ!」


そして今度は音楽準備室まで 階段を一段飛ばしで駆け上がった。

「のどかちゃんも けいおん部入ればよかったのに…」
「私はいいわよ…楽器弾けないし、歌もそんな…」
「のどかちゃんの歌声はすごいんだよ!うまいんだよ!」
「……え?音楽の授業以外で聴いたことあった?」
「ううん、なんとなく」

「唯、軽音部入ったときのこと…覚えてる?」
「うん!あのとき のどかちゃんが勧めてくれたんだよねぇ」
「自分から進んで入部したじゃない」
「そーだっけ?……あ、そーだったそーだった」
「唯が自分から何か始めるところを見て、
 私もみんなのためになれることをしたいって思ったから
 生徒会に入ったのよ」
「ぉお!さすがのどかちゃんだねぇ」

「……こういう形で 唯たちのサポートができてよかった」

「んー?」
「やっぱり私… あ、もう着いたわね」


音楽準備室の扉に唯が手をかけたところで、
内側から扉は開かれた。

「ぁっ、すみません!  ……あれ、会長!?」
出てきたのは緑のタイの後輩…うちの生徒会役員。
「よかった…行き違いになる前で」
「先輩から ここにいるって言われたんですがいなかったので…」
「私たち、実は教室にいたんだ~」
のほほんと答える唯も相変わらず。
「ぇ!そう…だったんですか! すみませんでした!」
「い、いいのよ…… それよりメガネは あなたが持ってるの?」
「あ、はい!…もう1回生徒会室に戻ろうと思ってて…」

後輩からメガネを預かり、装着。

しばらく裸眼だったせいか、一瞬ふらっときたけど
もう大丈夫。いつもの視界に戻った。


「じゃ、じゃあ私、生徒会室に戻ります」
「ええ、私もすぐ行くわ。ありがとう」
急ぎ足で階段をおりていった後輩は、
ほんのり頬を染めているように見えた。


「おまたせ~!」
改めて音楽準備室の扉を開き、
唯は元気よく足を踏み入れた。
「おお、やっと来たか~」
「今お茶入れるね」
「和!…その、ごめんな…」
律とムギと澪がそれぞれの反応で私たちを迎え入れてくれた。

「あ~ずにゃん!待ったぁ?」
「待ってないです!てか抱きつかないでくださいよ!」
「貴重なあずにゃん分の補給だよ~」
「もう…」
まんざらでもなさそうな唯と梓ちゃんのやり取りに
私も顔がほころんでいた。

「和ちゃんもお茶どう?」
部室の前で棒立ちになってる私に
ムギが声をかけてくれた。
「……そうね、ちょっと いただいていくわ」

結局、今日も軽音部に入り浸ることになりそうね。
心の中であの後輩に謝りながら部室の奥へ向かった。

「あら、椅子…増やしたのね」
机の数は4つのまま、椅子だけが全部で7つになってた。
「おう!さわちゃんとブッキングしてもいいようにな」
「最近はお菓子も多めに持ってきてるの」
律とムギの言葉は…まるで

「えっ、私の…席?」

そう言っているように聞こえてきた。

 

「ほら、和…なんだかんだでいつもここに来てくれるし」
申し訳なさそうに澪がつぶやく。
「うちのクラスの子が嫉妬してましたよ。
 [なんでいつもいつも軽音部に…仕事できる人だからいいけど]って」
楽しそうに梓ちゃんが話してくれる。
「そーだよ!この軽音部は何度和に救われたことか!」
「書類とか書類とか書類とかな」
「だーっ!澪それは言うなぁぁ!!」
律と澪から感謝されてる。

「だってのどかちゃんは大切な友達だもん!」

私が恥ずかしくてなかなか口に出せないことを
あっさりと唯は言ってのける。


嬉しくて、恥ずかしくて、
まったくこの子は…と思いながら、
やっぱり顔はほころんでる自分がいる。


「さ、座った座ったぁ!」
唯が私の手を引いて、席まで案内してくれた。

 

 

 

 


――やっぱり私…マネージャーじゃなくて正式な軽音部員に…それもありかも――

これだけは口に出すまいと思いつつ、
最近の仕事は軽音部を意識してることが多い自分に今更気付いた。

 

 

後輩たちには申し訳ないけど、
今日はちょっと長めに、私の[放課後ティータイム]をいただくことにするわね。

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
C a l e n d e r
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
U n i o n s
ざっと同盟貼ってみました。

ピカチュウ同盟。No.118(多分)です ポケダン愛好会。No.537です のだめマングースでギャボギャボし隊。 有沢たつき後援会。No.106(多分)です 一護+たつき委員会。コンビがいいんです。 水泳部同盟。元水泳部です♪ 眼鏡同盟。No.239です ドンマイ同盟。No.63です 深海同盟。No.38です Lovlue Union。No.20です 献血尊敬同盟。No.15です
P r o f i l e
HN:
swimmer
性別:
非公開
自己紹介:

Copyright © [ Take it EASY...!! ] All rights reserved.
Special Template : シンプルなブログテンプレートなら - Design up blog
Special Thanks : 忍者ブログ
Commercial message : [PR]